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第十八話 揺れ動く気持ち①

last update 最終更新日: 2025-07-09 17:16:30

 皆が寝静まり、夜の静寂に包まれた頃。

 神威のことが気になって眠れない雛は、一人縁側で夜空を眺めていた。

 大きなため息が、雛の口からこぼれた。

 そのとき、雛の肩に羽織がそっとかけられる。

「どうした? 眠れないのか」

 優しい笑みを浮かべた宇随が、雛の隣にそっと腰を下ろす。

「宇随さん……ありがとう」

 雛が小さく微笑み、お礼を言う。

 照れくさそう笑った宇随は夜空を見上げた。

「星が、綺麗だな」

 しばらく二人は夜空を眺めていた。

 いつもはよく喋る宇随も、その時はなぜか静かだった。

「俺さ……孤児だったんだ」

 急に宇随がぽつりとつぶやいた。

 突然の告白に驚いた雛は、宇随を大きな目で見つめる。

 宇随は夜空を眺めながら、懐かしそうに目を細めた。

「でも、俺は恵まれてた……今の家族が拾って育ててくれたんだ。

 父親は農民で、そんなに裕福でもなかったし、金に困ってた。子どもを拾って育てる余裕なんてないだろうに、自分の子と同じように愛してくれたよ。

 本当に感謝してる。

 だから俺が一旗上げて、家族に恩返ししたいんだ。

 もちろん俺だって、それが世のため人のためになるなら、それに越したことはねぇって思う。

 こんな俺でも役に立てるんだって、嬉しいしさ」

 宇随は照れくさそうにはにかんだ。

 なぜ彼がこのような話を始めたのか、意図はわからなかった。

 しかし、こんな大切な話をしてくれるということは、信頼されているのだ。と思うと、雛は嬉しかった。

 雛は静かに、宇随の話に耳を傾けた。

「俺、バカだからうまく言えないけどさ――おまえはすごい奴だと思ってる。

 雛のその力を、悪いことに使えば世界は悪くなるし、良いことに使えば世界はきっとよくなる。

 おまえがその力を使うことによって、きっと助かってる奴が絶対にいると思う。

 苦しみや悲しみから解放される奴が、これからもおまえを待ってる」

 宇随は真剣な

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